長い結婚生活の中で、地味に感じ続けてきた私と相手方の感覚の違い。
モヤモヤとしたそれは、特段トラブルの原因になるようなものではありませんでした。
でも日常の中で相手方が残す何か解せない、不愉快な後味。
それは相手方のモラハラ体質、男尊女卑という考え方では説明できないものでした。
結局その正体が何なのか分からないまま、私はとうとう家を出ました。
ところが先日、思いがけないことからその全貌が明らかになったのです。
相手方は外面が良く営業畑で重宝がられて来たようです。
段取りよく準備をし、端々にまで気を配ることが自慢でした。
こういうタイプは案外プライべ―トでは何もしないものです。
家族は養われている側。養っている自分が何事も優先されて当然という態度。
これは良くも悪くも分かりやすいと言えます。
私にとって不愉快で不可解だったのは、家族に対する日ごろの無関心さとは裏腹に、時折見せる唐突な介入でした。
何の脈絡もなく突然行先を勝手に決めて出かけようと誘ってみたり、節目でもない結婚22年目で高級なペアウオッチを買うと決めたり。
それまで結婚記念日だからと花1本もらったことも無いのに。
その行動はあくまでも事後報告的で、私はその提案を受け入れるか拒絶するかしかありません。
相手方は安物買いで、服や持ち物にはお金をかけません。
さすがにペアウオッチのときは、銀婚式でもないのにと理由を聞きました。
すると「会社のX氏から、わが社の重役がそんな腕時計では恥ずかしいと言われた」と言いました。
「だから国産の最高級のペアウオッチを買うんだ。銀婚式にはちょっと早いけどな」
さすがに自分だけ高級時計を買うのは気が引けたという事でしょうか。
その頃は関連会社の社長に抜擢される前の絶頂期でした。
私はこんな理由だったのかとシラケた記憶があります。
この出来事は特別ですが、もっと地味で似たような事が長い結婚生活の中で時折ありました。
私や子ども達には何も知らせずサプライズ…と言うのとは全く異質の違和感。
私達に無関心でも、自分の興味の有る無しで簡単に態度を変えるのだとずっと思っていたのです。
その違和感の正体が今になって分かるとは‥。
その瞬間は突然やってきました。
この夏から、ハリー・ポッターを読んでいます。
このハードカバーの本は娘のポッペがお小遣いをためて全巻揃え、その後息子のボーに受け継がれ、2人とも繰り返し何度も読んでいました。
子ども達の迷い多き思春期の道しるべとなってくれた大切な本、私は迷わず新居に持っていく本の中に入れました。
当時は読破できなかったので、いつかゆっくり読もうと思っていたのです。
今は3巻目『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』。
それは裏切り者ピーター・ペティグリューが正体を見破られた場面でした。
ーーーおまえはいつも、自分の面倒を見てくれる親分にくっついているのが好きだった。
ーーーおまえは、自分のために得になることがなければ、誰のためにも何もしないやつだ。ーーー
これを読んだとき、私の中で哀しいほどピッタリと相手方の生き様が浮かんだのでした。
私が相手方と出会うずっと前、相手方が大学生の頃、かなり派手に遊んだ仲間たちは皆そこそこ資産家の子息たちでした。
私は自分の結婚式で、既に家業を継いでいるその友人たちに初めて会いました。
私同様いびつな家庭環境だった相手方は、そのグループで可愛がられる存在だったことを知ります。
結婚の仲人をお願いした相手方の会社の当時常務には、ずっと気に入られていました。
出世するには「上からの〝引き〟がなきゃ絶対に無理だ」とか「トップの人間に気に入られていればいいんだ」とも言っていました。
その会社を不本意な辞め方となる直前まで、自分は周りから愛される存在だと信じているようでした。
「周りから愛されてるんだ、俺はな」
私も子ども達も何度聞いたことでしょう。
いい歳をして恥ずかしげもなく…と私は呆れながらも、相手方はそれなりに出世しています。
それが社会的地位のない自分にはわからない、相手方への遠慮になっていました。
相手方が働きかける時感じる、どこか唐突で不愉快な後味。
それは打算的な臭いを放っていたのだと、本を読んでいてハッキリわかったのです。
不可解に思う原因は自分の存在が置き去りにされていることを感じるからに他なりません。
あの一節を読んで、今までのモヤモヤが氷解すると同時にやりきれない気持ちが湧いてきました。
ハリー・ポッターの登場人物の中でも、ハリーの両親を死に追いやる裏切りを働いたピーター・ペティグリュー。
その在りようは浅ましくも薄汚なく、よりによってその描写で気づかされることになるとは‥。
私はしばらくの間複雑な気持ちに呆然としていました。
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