6年ぶり 母親に会いに行く ②

遠距離介護

初めて訪れるそこは、HPの写真の印象より古めな施設でした。

受付で母と私の名前、面会に来たことを告げると職員さんが案内してくださいました。

広い廊下、木の柱・床・天井など、昔通った小学校を思い出します。

  

職員さんの後に続いて薄暗い廊下を進みます。

突き当りの一角でテレビを観ている方々に軽く挨拶をして、右に曲がり少し行くと職員さんが立ち止まりました。

職員さん
職員さん

C子さん‥C子さん、寝てるかな?

私は少しだけ身構えるような心持で、職員さんの目線の先を見ました。

廊下に置いてあるテーブルの横、車いすの中に母がいました。

眠っているのか、顔を隠すように両手で覆っています。

顔はよく見えないけれど、確かに見覚えのある私によく似た母の手でした。

職員さんが車いすを押して、部屋へ案内してくださいました。

4人部屋のカーテンで仕切られた右手、通路側に母のベッドがありました。

  

職員さん
職員さん

このイス使ってくださいね

どうぞごゆっくり

カーテンを引いて、母と2人になりました。

母は何も言わず手で顔を覆ったまま、垣間見える目は閉じています。

私は右手を伸ばし、母の左肩から二の腕を静かに撫でてみました。

少し母を見つめて小さい声で呼びかけます。

(私の名前)です。眠ってる?

わかる?(私の名前)。

特に反応はありません。

私は撫で続けがら時折り小さく呼びかけます。

母の気持ちと私の気持ちの両方をほぐすように、ゆっくり、ゆっくり。

そうするうちに私自身が落ち着いてきて「おかあさん」と声に出せるようになりました。

ゆっくり撫でながら「おかあさん、来たよ、(私の名前)だよ」と。

  

20分程そうしていた時、覆っていた両手が外れて右ひじを少し掻きました。

そして突然母が話します。

「おとうさん、もういいわ」

その声が意外に大きくて力があったので少し驚きました。

でも目は閉じたまま、起きたのかまだ夢の中なのかわかりません。

私はその後も腕を撫で、お土産の犬のぬいぐるみを母の手に当てて話しかけます。

  

そのうちに私自身の心がほぐれたのでしょうか。

思いがけない言葉が私の口をついて出ました。

おかあさん、お家建ててくれてありがとう。

お家、残してくれてありがとうね。

自分の言葉に私自身が少し驚きました。

母は目を閉じて黙ったままです。

  

物心ついて以来続いた暴言と暴力。

それでも24時間ずっと母を憎んでいたのではありませんでした。

独特のユーモアに笑い、子どもの頃は自転車を連ねて出かけるのが楽しかったこともありました。

一瞬訪れる幸せに似た感覚。

でもその後必ず訪れる圧倒的な絶望と虚無感、その繰り返しでした。

【母が特養に入るまで】番外編①:C子さん/その生い立ち
【一人暮らしの母親と 東京で家族と暮らす 一人娘のドキュメント】ブログを書き始めて約1カ月。ふと“母”を“C子さん”としてみたら私の中でしっくりと落ち着くことに気がつきました。57歳の私よりずっと若かったころのC子さんのことを少し話してみようと思います。

母自身も障害を背負って生きた時代が苛酷だったことは間違いありません。

父と共に生業を維持し、私を育て、家を建てて世間を見返すことが母にとって全てだったような気がします。

私が結婚し孫ができ父が亡くなると、母は世間と闘う必要が無くなりました。

その解放は母が当時言っていたような自由というよりも、むしろ虚空だったのかもしれないと今となっては思います。

  

〝私は母が持ち得ない愛情を期待していたのだ〟そう悟って以来、母には理性で接してきました。

母のあらゆる言動に波立つのは私の表層意識、心は微動だにしなくなりました。

その私から今この言葉が湧き出るとは‥

今回の訪問の意味は、母にこの気持ちを伝え、私自身が気づきを得る事にあったのかもしれない‥

そんなことを思いながら母の腕を撫で、1時間ほど過ごしました。

施設は緑に囲まれて、鶯の声が聞こえていました。鶯は2月~7月くらいまでオスだけが〝ホーホケキョ〟と鳴くそうですね。

  

「おとうさん、もういいわ」と言った母の世界には父がいるようです。

若かった時代に戻ってもう一度人生を生きているのかもしれません。

予想していたよりずっと明るく穏やかな顔つきになっていた母。

職員の方々のおかげ様で肌ツヤ良く、施設の生活に馴染んでいるようでした。

来てよかったと心から思い、そう思えることに安堵しながら帰京したのでした。

  

  

  

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